風俗店ソープランド摘発の背景|働く女性は処罰されるのか
もくじ
- もくじ
- ソープランドの摘発の背景にある法的問題
- ソープランドは性風俗関連特殊営業
- 性風俗関連特殊営業は誰でも開始できる営業
- 性風俗関連特殊営業の法令違反に対する処分
- 店舗型性風俗特殊営業(約7000件)
- ソープランドとファッションヘルスの違い
- ソープランドで働く女性は処罰されるのか
- 売春関係事犯取締の過程等において発見された要保護女子の取扱い
- 無店舗型性風俗特殊営業
- 店舗型性風俗特殊営業が守るべきルールと営業停止期間
ソープランドの摘発の背景にある法的問題
ソープランドなどの風俗店は風営法の規制を受け、頻繁に警察の摘発を受けます。ソープランドとファッションヘルスの法的な位置づけの違い、そこで働く女性は処罰されるのか、などについて風営法と売春防止法の観点から解説します。
ソープランドは性風俗関連特殊営業
風営法ではソープランドは性風俗関連特殊営業に属し、この営業は次の5種に分類されます。そして、ソープランドは店舗型性風俗特殊営業です。
www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp
性風俗関連特殊営業を開始しようとするときは、あらかじめ都道府県公安委員会に営業開始の届出をしなければなりません。よく誤解されていますが、この手続きは許可ではありません。
性風俗関連特殊営業なのに「当店は許可済み優良店」などと宣伝しているのを見かけますが、根本的なところを誤解しているということです。
ピンクサロンであれば風俗営業許可で営業しているかもしれませんが、ピンクサロン営業が風営法的に「優良」ということはありません。
性風俗関連特殊営業は誰でも開始できる営業
許可は、法で禁止されている行為について、法で定められている要件を満たしている者に対して許す行為です。
キャバクラ(風俗営業)やナイトクラブ(特定遊興飲食店)などは、営業が禁止されており、営業したい者は公安委員会に許可申請を行って許可を得られれば営業できます。
性風俗関連特殊営業は、その営業が法で禁止されているのではなく、一定のルールを守っていれば誰でも合法的に営業できる営業ですが、公安委員会での開始届け出を完了しないで営業を開始すると、届出手続きをしなかったこと(手続き懈怠)が届出義務違反という犯罪として処罰対象となります。
性風俗関連特殊営業は、誰でも許可なく開始できますが、関係法令は順守しなければなりません。
法制度上、この営業は社会的に好ましくない営業とされており、健全営業を期待されていないので、違反行為があれば厳しく取り締まられるべき対象です。よって、この営業に関わる場合は、法令を正しく理解しておく必要性が高いです。自己責任ということです。
性風俗関連特殊営業の法令違反に対する処分
風営法は性風俗関連特殊営業に関連する規制を多数設けており、これに違反する行為には刑事罰又は行政処分の対象となるものが含まれています。
公安委員会は性風俗関連特殊営業において法令違反行為が行われた場合に、風営法に基づいて指示、営業停止、廃止命令などの行政処分を行うことができます。
指示は、違反行為を自主的に是正させるために必要な指示を行う行為です。
営業停止は8か月を超えない範囲で、法令違反の種類や態様等によって判断されます。その判断の目安が警察庁で定められています。
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく営業停止命令等の基準
刑罰の対象となる違反行為に対しては刑事訴訟法に基づく犯罪捜査の対象となりえますが、ここでは解説すると字数が多くなるので割愛します。
店舗型性風俗特殊営業(約7000件)
「店舗型」は店舗で客にサービスを提供する営業であり、店舗を設置できる場所は営業の種類と都道府県別により異なりますが、現在のところ全国的に極めて厳しく制限されています。
店舗型営業の多くは規制が厳しくなる前に開業していたことで、いわゆる「既得権」をもとに営業しています。現在では新規出店が難しいこともあり、年々減少傾向にあります。
風営法(第2条6項)で次の6種類に分類されています。件数は令和3年度時点の情報です。
ソープランド(約1100件)
一号 浴場業の施設として個室を設け、当該個室において異性の客に接触する役務を提供する営業
ファッションヘルス(約700件)
二号 個室を設け、当該個室において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業(浴場業を除く。)
ストリップ劇場・個室ビデオ等(約90件)
三号 専ら、性的好奇心をそそるため衣服を脱いだ人の姿態を見せる興行その他の善良の風俗又は少年の健全な育成に与える影響が著しい興行の用に供する興行場として政令で定めるものを経営する営業
ラブホテル・モーテル等(約5000件)
四号 専ら異性を同伴する客の宿泊(休憩を含む。以下この条において同じ。)の用に供する政令で定める施設(政令で定める構造又は設備を有する個室を設けるものに限る。)を設け、当該施設を当該宿泊に利用させる営業
アダルトショップ等(120件)
五号 店舗を設けて、専ら、性的好奇心をそそる写真、ビデオテープその他の物品で政令で定めるものを販売し、又は貸し付ける営業
出会い系喫茶(約60件)
六 前各号に掲げるもののほか、店舗を設けて営む性風俗に関する営業で、善良の風俗、清浄な風俗環境又は少年の健全な育成に与える影響が著しい営業として政令で定めるもの
ソープランドとファッションヘルスの違い
風営法の位置づけでは、どちらも「個室において異性の客に接触する役務を提供する営業」ですが、このふたつの営業の違いは法律上は「浴室があるかないか」しかありません。
実態としてソープランドでは売春(いわゆる本番)行為が行われ、ファッションヘルスではそれが行われないものと世間一般で認識されていますが、この違いに法律的な根拠はありません。
売春は売春防止法で禁止されており、ソープランドもその例外ではなく、ソープランド内で売春を行う行為も禁止されています。
しかし、売春防止法は売春行為を行った女性を法律上の処罰対象としておらず、売春を助長する行為(周旋・場所の提供ほか)を行った者を処罰対象としています。
ソープランドでは、女性は独立した事業者としてソープランドの個室で「異性の客に接触する役務(売春をのぞく)」を業務委託契約にもとづいて提供している、というカタチを取っているとよく言われますが、その実態がどうであるかは別問題です。
ソープランド側にとっては「外部業者に性的サービスの提供を委託していたところ、その業者が個室内で勝手に売春をしていた。」というストーリーになるかと思われます。
この場合、女性は従業員として勤怠管理されていないことになり、業務委託契約に反しない限り、その営業方法は基本的に事業者(女性)の自由、ということになります。
ソープランドで働く女性は処罰されるのか
ソープランド内で行われる売春行為自体は売春防止法違反ではあるものの、法律上の処罰対象にはなっていません。
法律違反はすべて犯罪だと誤解している人は多いですが、そうではないのです。
しかし、次のような行為は処罰対象です。
- 街で通行人等に対して売春の相手となるよう勧誘する
- 勧誘する目的で通行人の前に立ちふさがったり、つきまとったりする
- 人目につく場所でそれとわかるような方法で客待ちをしたり、売春を誘引するような行為を行うこと。
これらはソープランドの外で行われる行為ですので、店外で活動しない女性は気にしなくてよいでしょう。
(勧誘等)
第五条 売春をする目的で、次の各号の一に該当する行為をした者は、六月以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
一 公衆の目にふれるような方法で、人を売春の相手方となるように勧誘すること。
二 売春の相手方となるように勧誘するため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと。
三 公衆の目にふれるような方法で客待ちをし、又は広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること。
売春を助長させる行為は処罰対象なので、助長行為に関係してしまうと処罰される恐れがあります。
助長行為には周旋、困惑、対償の収受、場所資金の提供、前貸し、売春させる契約などがありますが、個室でサービスを行っているだけの人は助長行為には関係ないので気にしなくてよいでしょう。
詳しくは以下の売春防止法の条文をご覧ください。
(周旋等)
第六条 売春の周旋をした者は、二年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
2 売春の周旋をする目的で、次の各号の一に該当する行為をした者の処罰も、前項と同様とする。
一 人を売春の相手方となるように勧誘すること。
二 売春の相手方となるように勧誘するため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと。
三 広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること。
(困惑等による売春)
第七条 人を欺き、若しくは困惑させてこれに売春をさせ、又は親族関係による影響力を利用して人に売春をさせた者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
2 人を脅迫し、又は人に暴行を加えてこれに売春をさせた者は、三年以下の懲役又は三年以下の懲役及び十万円以下の罰金に処する。
3 前二項の未遂罪は、罰する。
(対償の収受等)
第八条 前条第一項又は第二項の罪を犯した者が、その売春の対償の全部若しくは一部を収受し、又はこれを要求し、若しくは約束したときは、五年以下の懲役及び二十万円以下の罰金に処する。
2 売春をした者に対し、親族関係による影響力を利用して、売春の対償の全部又は一部の提供を要求した者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
(前貸等)
第九条 売春をさせる目的で、前貸その他の方法により人に金品その他の財産上の利益を供与した者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
(売春をさせる契約)
第十条 人に売春をさせることを内容とする契約をした者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
2 前項の未遂罪は、罰する。
(場所の提供)
第十一条 情を知つて、売春を行う場所を提供した者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
2 売春を行う場所を提供することを業とした者は、七年以下の懲役及び三十万円以下の罰金に処する。
(売春をさせる業)
第十二条 人を自己の占有し、若しくは管理する場所又は自己の指定する場所に居住させ、これに売春をさせることを業とした者は、十年以下の懲役及び三十万円以下の罰金に処する。
(資金等の提供)
第十三条 情を知つて、第十一条第二項の業に要する資金、土地又は建物を提供した者は、五年以下の懲役及び二十万円以下の罰金に処する。
2 情を知つて、前条の業に要する資金、土地又は建物を提供した者は、七年以下の懲役及び三十万円以下の罰金に処する。
結論としては、ソープランドの個室でサービス提供をしているだけであれば、たとえ売春行為が疑われたとしても、そのことを理由として法律上の処罰を受ける心配はないと考えてよいでしょう。
しかし、店舗が何らかの違反容疑で摘発された際には、そこで働いていた人が警察署で事情を聴かれたり、身分関係の記録や写真をとられたりすることはありえます。
警察にとってみれば、事件の全容が明らかになるまでは、店舗にいた人は一応みな関係者ということになります。また、売春を行っていたと疑われる女性に対して警察は売春防止法に関係する措置をとることがあります。
売春関係事犯取締の過程等において発見された要保護女子の取扱い
警察は売春関係の取締りにおいて要保護女子を発見した場合には、次のような措置をとることになっています。女性は基本的に「保護されるべき存在」として扱われますので、あまり心配しない方がよいです。
1 要保護女子については、その境遇に応じ、保護更正措置について教示するとともに、この要領に基く適切な措置を講じ、その転落を防止するよう努めるものとする。
2 要保護女子の取扱に当っては、いわゆる「ひも」等が介入して、要保護女子の更正を阻害し、又は再転落をさせることのないよう必要な措置を講ずるものとする。
3 前2項の措置をとった要保護女子については、要保護女子措置簿に所要事項を記入し、その措置のてん末を明らかにしておくものとする。
要保護女子とは
1 売春環境から脱出し、又は更正する目的をもって、警察に保護救済を求めてきた女子
2 警察で検挙した売春関係事犯の被害者である女子
3 警察で検挙した被疑者で売春を行うおそれのある女子
4 警察で発見した行方不明者その他の者でその性行又は環境に照して売春を行うおそれのある女子
無店舗型性風俗特殊営業
店舗を必要としないで性的サービスを行う営業で、2種類あります。
デリバリーヘルス(約20000件)
派遣型ファッションヘルスとも言います。「派遣する」という意味を「デリバリー」と置きかえて「デリバリーヘルス」とも言います。店舗でサービスを行わせないサービスです。
主に、事業者情報、事務所を設置する場所、営業方法等を営業開始届出として公安委員会に届け出て、届け出確認書の交付を受けてから営業を開始してください。
営業方法は風営法の規制を受けます。違反行為に対しては、違反の種類に応じて刑事罰や行政処分を受ける恐れがありますが、詳しくは上述の情報をご覧ください。
事務所は日本中どこでも設置できますが、事務所の登記簿上の所有権を持たないで開始する場合は、建物所有者からデリヘルの事務所として使用することと、開始届出手続きに協力することについて了解を得る必要があります。
使用権原があることを疎明する資料の確保は営業開始届出手続きにおいて非常に重要なポイントになります。
また近隣住民の意向にも注意しないと重大なトラブルに発展するおそれがあります。
風営法第2条第7項
一号 人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業で、当該役務を行う者を、その客の依頼を受けて派遣することにより営むもの
アダルトビデオ等通信販売(約1300件)
店舗を構えずにアダルトビデオ等を販売、貸付ける目的で配達する営業です。
基本的には上述のデリヘルの解説と同じです。
風営法第2条第7項
二号 電話その他の国家公安委員会規則で定める方法による客の依頼を受けて、専ら、前項第五号の政令で定める物品を販売し、又は貸し付ける営業で、当該物品を配達し、又は配達させることにより営むもの
店舗型性風俗特殊営業が守るべきルールと営業停止期間
公安委員会が法令違反をした店舗型性風俗特殊営業、無店舗型性風俗特殊営業、店舗型電話異性紹介営業又は無店舗型電話異性紹介営業に科す行政処分の判断の目安としてAからFまでにランクされた量定というものがあります。主な違反行為と量定を列挙します。
A 8月の営業停止命令
B 2月以上8月以下の営業停止命令。基準期間は、4月。
C 1月以上8月以下の営業停止命令。基準期間は、2月。
D 20日以上4月以下の営業停止命令。基準期間は、1月。
E 10日以上2月以下の営業停止命令。基準期間は、20日。
F 5日以上40日以下の営業停止命令。基準期間は、14日。
営業者の義務
- 営業時間の制限を守ること(28条4項)
- 広告宣伝の規制を守ること(28条5~8項)
- 十八歳未満の者がその営業所に立ち入つてはならない旨を営業所の入り口に表示すること(28条10項)
禁止行為(28条12項ほか)
- 当該営業に関し客引きをすること 第31条の13第2項第1号 B量定
- 当該営業に関し客引きをするため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと 第31条の13第2項第3号 第31条の13第2項第2号 B量定
- 営業所で十八歳未満の者を客に接する業務に従事させること 第31条の13第2項第3号 A量定
- 十八歳未満の者を営業所に客として立ち入らせること 第31条の13第2項第5号 B量定
- 営業所で二十歳未満の者に酒類又はたばこを提供すること 第31条の13第2項第6号 B量定
- 従業者名簿備付け記載義務違反の罪 第36条 D量定
- 報告・資料提出義務違反の罪 第37条第1項 D量定
- 立入の拒否、妨害、忌避の罪 第37条第2項、第38条の2第1項 D量定
- 売春防止法第2章の罪に当たる違法な行為 A量定
売春防止法違反と年少者による接客はA量定、つまり最も重い処分を受ける違反行為にランク付けとされています。